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> 『ひめゆり』(1) ふみ・ルリ姉妹が印象深く…
60年前の今日、広島に原爆が落とされました。戦争を生き延びた人々の高齢化が進む中、若い世代がその体験を自らのものとして次代へ伝えていこうという試みが、いろいろなところで行われています。

このミュージカル『ひめゆり』も、そんな作品の一つ。戦中の子どもたちが、学校で教えられるままに「お国のために死ぬ」と思っていたなんて、話には聞いても、以前はいまひとつ実感できなかったものでした。でも『ひめゆり』の学徒たちを観ると、個人の感情を押し流す全体主義の強力な空気が恐ろしく身に迫ってきます。

主人公・キミ(ひめゆり学徒)役の島田歌穂さん。最初どこにいるのか分からないほど、17歳の少女になりきっていました。役を「作っている」のではなく、文字通り「なりきって」いるように私には見えました。成熟した大人になっても、こんなに若くいられるものなのか…。いや、素人には到底無理なことと分かってはいますが、あこがれるくらいはいいよね…。

戸井勝海さん演じる檜山上等兵は、去年より説得力が増した演技だったような。自分の手で殺し合いをしてきたことへの罪の意識が、より深く感じられます。死を悟り、一緒にいたキミに「自分の死に様を、親に伝えてくれ」と頼むシーンがありますが、キミがその願いを頑として聞き入れないところが、「生きてこそ」というこの作品のメッセージを表しているようで、観る方も力が入ります。

土井裕子さんの婦長さんが、絶望する生徒たちに「若いあなたたちには将来がある… 教えて、みんなの夢を」と呼び掛け、「甘い夢を見ましょう♪」と歌う場面で、やっぱり泣かされました。戦場にあっても、周りに希望を与える強さを持った女性。おこがましい言い方を許していただけるなら、この婦長さんは自分の理想です。モデルになった人がいるのだろうか。
(追記)モデルはいるようです。パンフの「沖縄戦とひめゆり学徒隊の悲劇」でそのあたりが言及されています。

そして今年の滝軍曹は今拓哉さん。学徒たちから「鬼軍曹」と呼ばれ恐れられていますが、単に威張り散らしているのではなく、追い詰められてすでに精神が壊れかけていることがよく伝わってきます。「すぐだ…! すぐ本土から応援が来て、日本軍の総攻撃が始まる…!! ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ」と笑うところ、ひんやりした空気を感じるほど怖かった…。お芝居でこうなんだから、実際の沖縄戦体験者の恐怖やいかに…。飯あげ、そして赤ちゃんのシーンは、去年の岡幸二郎さんとは違う、今さんなりの演出でした。

と素晴らしいプリンシパル陣に勝るとも劣らぬ、いや自分にとってもっとも印象深かった存在は、ひめゆり学徒の「ふみ・ルリ」姉妹でした。

妹ルリは、本当に昭和20年代の記録映像から抜け出てきたようなワカメちゃんカットに、つぶれたような幼い顔。こんな外見で、普段の生活は平気なのかしらと余計な心配をしたほどです。でもロビー展示の「劇団員メッセージ」にあった素顔の写真では、おしゃれな若者でした。彼女は村上由香さん。『屋根の上のヴァイオリン弾き』で末っ子を演じてた女優さんです。

姉ふみは、鈴木智香子さん。『レ・ミゼラブル』のファクトリーガール(ベガーのシーンではマドレーヌちゃん)でおなじみでしょう。歌はもちろん抜きん出てきれいに響いていましたが、心にうっと来たのは、逃避行の最中にみんなとはぐれ、妹と二人で命からがら家にたどりついてお母さんを見つけたシーン。「うわー」とも「ぎゃー」ともつかない大声を出してお母さんにすがりつく様子が、涙腺を刺激しました。姉として気丈に振舞ってきた緊張の糸がわっとほぐれて、どんなにつらかったかと想像させるに余りある泣き声。決して美しくない声かもしれません。でも、相当研究したんじゃないかと思われる演技でした。

長くなってごめんなさい。
by redandblackextra | 2005-08-06 23:51 | 舞台にまつわる話

観劇と読書が好き。いや、ほかにもあるかな。当面の間は、ぼちぼちマイペースで更新します。
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