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> 映画『グッドナイト&グッドラック』 内面にも外見にも美学を持て
映画の余韻にひたっていたくて、めずらしくジャズを聴きながら書いています。選んだのはサラ・ヴォーン「Sarah Vaughan with Clifford Brown」。このアルバムがレコーディングされたのは、今日観てきた『グッドナイト&グッドラック』の設定と奇しくも同じ、1954年でした。

東西冷戦下、アメリカ上院議員マッカーシーによる「赤狩り」が多くの人々を疑心暗鬼に陥れていた時代です。「共産主義シンパの疑いあり」と一方的にみなされた人たちが、根拠もなく、適正な法手続きもないまま、突然職場を追われたりすることが当時はまかりとおっていました。

その風潮に疑問を呈したのが、3大テレビネットワークのひとつCBSで人気を誇っていたニュースキャスター、エド・マローです。未確認の「告発文」によって共産主義者の嫌疑を掛けられて解雇された軍人がいると知り、これを検証した番組を放送したマローたち。このことをきっかけに、彼はマッカーシー本人だけでなく、広告収入の減少を懸念する自社の経営陣からも圧力をかけられます。

それでもマローは、権力者を恐れて口を閉ざす自分たちにも無節操な政治手段を助長している責任はあると考え、「堂々と意見を交わそう」とブラウン管を通して問い続けます。

ただしこの映画はNHKの「プロジェクトX」のように、感動仕立てでストーリーを盛り上げようとはしていません。描かれているのは「報道の自由のために戦った正義のヒーロー」ではなく、「仕事の美学を貫いた人間」の話です。「職業人の良心」と言ってもいいか。

主役のマローを演じているデヴィッド・ストラザーンに見惚れました。精神的にも見た目にも、ダンディズムがあふれています。同僚の女性たちもクラシカルな50年代のメイクと洋服で登場。女性的かつ、言動に凛々しさを感じさせます。男も女も、ひとりの人間としての美学を重んじていた時代だったのかな。登場人物たちは皆、自分の信念をしっかり持っています。だからこそ恐怖政治に迎合するのではなく、報道番組の使命を果たす勇気を持ちえたのでしょう。

「赤狩り」の検証番組を感情的に批判するマッカーシーに対して、静かにはっきりと自分の意見を述べるマローの姿が印象的。自由を守る手段は恣意的な暴力ではなく、行動する勇気と品位ある言論にほかならないことが分かります。「外国に出ていくのもいいが、自国民の自由を守れない国が、どうして他国の自由を守ることができるのか」というマローの訴えは、まさしく現代に通じるもの。日本も例外ではありません。

「ER 緊急救命室」のロス先生役で有名になったジョージ・クルーニーが製作、監督、準主役を務めています。クルーニーは、自宅を抵当に入れて制作費を捻出してまで、この映画を撮りたかったとのこと。「ロス先生が、なにやら社会的な映画を撮ったんだって?」という興味だけで観に行ったのですが、学ぶことの多い作品でした。

公式サイト内のコンテンツ「About the Movie」はお勧め。物語を彩るスタイリッシュなジャズの音色と、マローの渋いポートレートがたまりません。
by redandblackextra | 2006-05-25 00:54 | そのほか

観劇と読書が好き。いや、ほかにもあるかな。当面の間は、ぼちぼちマイペースで更新します。
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